2026年5月、第70回岸田國士戯曲賞を受賞したダウ90000の蓮見翔さんが、集英社オンラインの対談記事の中で「流行ってないのに偉そうにするのはやめましょうよ」と演劇界に対して率直な意見を述べ、SNSを中心に大きな議論を巻き起こしました。「よく言ってくれた」という共感の声がある一方で、「演劇に人生を捧げてきた人への敬意が足りない」という反発もあり、賛否が真っ二つに割れる事態となりました。
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2026年5月7日、集英社オンラインに蓮見翔さんと、同じく岸田戯曲賞を同時受賞した「ダダルズ」の大石恵美さんとの対談記事が掲載されました。記事のタイトルが「流行ってないのに偉そうにするのはやめましょうよ」という非常にインパクトのあるもので、これがSNS上で一気に拡散されました。
対談の中で蓮見さんは、「演劇って今、全然流行ってないじゃないですか」「自分がやってるジャンルは盛り上がっててほしいし、カッコよくあってほしい」という思いを語っています。そして、受賞したからには「演劇も岸田賞も、どんな手を使ってでも流行らせたい」と宣言しました。
問題は、この記事が公開されたのが岸田戯曲賞の授賞式の直前だったということです。授賞式には、当然ながら演劇界の重鎮や関係者が多数出席していました。記事を読んだ上で式に臨んだ人も多かったでしょうから、会場の空気は想像に難くありません。
蓮見翔さんとはどんな人物か
蓮見翔さんは1997年生まれで、2020年に男女8人組のコントユニット「ダウ90000」を結成しました。ラーメンズに影響を受けてコントを書き始め、日本大学芸術学部映画学科を経て、演劇とお笑いの両方のフィールドで活動しています。
蓮見さんは、いわゆる「演劇畑」だけで育ってきた人ではありません。お笑いの仕事もテレビの仕事もやっている。対談の中でも「演劇どっぷりでやってきたわけじゃない」「演劇作品だって、数そんなに観てるわけじゃない」と自ら認めています。この越境者としての立ち位置が、今回の発言の受け取られ方に大きく影響しました。
この発言には前振りがあった
蓮見さんが「○○は流行っていない」と言ったのは、実は今回が初めてではありません。以前、ABEMAの番組で「お笑いは流行っていない」と発言し、お笑い界を大いにざわつかせたことがありました。この「お笑いは流行っていない」論争はその後、同番組で街頭インタビューによる検証企画まで行われるほどの反響を呼びました。
こうした文脈があった上で、今度は演劇界に対しても同じことを言ったわけですから、「あの蓮見がまた言った」という注目が集まるのは必然だったといえます。
なぜ演劇関係者の心に刺さったのか
この発言が単なる炎上ではなく、深い議論を呼んだのには理由があります。
まず、「偉そう」という言葉の衝撃があります。演劇界には、長年にわたって作品を作り続け、商業的な成功よりも芸術的な価値を追求してきた人々がたくさんいます。そうした人たちにとって、流行ってないこと自体は織り込み済みかもしれませんが、そのことをもって偉そうにするなと言われると、自分たちの誇りや矜持を否定されたように感じてしまうのは自然なことでしょう。
蓮見さんの立ち位置の問題もあります。お笑いやテレビの仕事も広くやっている人が、演劇の最高峰の賞を受賞した上で演劇は流行ってないと言う。これは演劇一本でやってきた人からすると、お笑いやテレビの人気をバックにこちらの世界に踏み込んできて上から物を言っているように見えてしまう面があります。
そしてもうひとつ、発言の中に含まれる痛いところを突かれた感覚も見逃せません。演劇が広く一般の人々に届いていないという現実は、多くの演劇人が薄々感じていることでもあります。しかし、それをここまでストレートに言語化されると、認めたくない現実を突きつけられたような気持ちになるのかもしれません。
岸田賞授賞式でのその後がまた話題に
おもしろいのは、蓮見さんがこの状況を受けて萎縮するどころか、むしろ攻めに転じたことです。
授賞式の翌日深夜、蓮見さんはTBSラジオ・爆笑問題カーボーイに乱入出演し、授賞式の裏側を面白おかしく語りました。記事が直前に出たことで式は「めちゃくちゃアウェイみたいな空気」だったけれど、「もう俺も引き下がれないから、もう1回スピーチで押さえ直した」と振り返っています。式が終わった後には、劇作家の本谷有希子さんが近づいてきて「え、私生意気?」と言われたというエピソードも披露し、田中裕二さんが「いやあ、怖いよ」と笑う場面もありました。
授賞式のスピーチでは、蓮見さんは「本気で思ってるわけないじゃないですか。だったら絶対辞めるし」と冗談めかしつつ、「でも言わなきゃいけないことがあるのも事実」と真剣に語っています。具体的には、大学時代に明らかに自分より才能があると思っていた仲間が、プロで通用するわけないからと演劇を辞めてしまったこと、良い役者さんがバイトのきつさで辞めてしまうケースが後を絶たないことに触れ、「そういう空気が蔓延していることを、演劇界で強く感じます」と力説しました。
そして最後に「僕の意見に賛同しても、反対してもいいけれど、エネルギーは出るはずなので、そのエネルギーで演劇が前に進むことを全員がもっと考えなきゃいけない」と呼びかけ、「そういう人のシフトを1日だけでも減らせるような活動に僕らの活動がなればいい。一緒に流行らせてください」とスピーチを締めくくりました。ヨーロッパ企画・上田誠さんも、「演劇は本当に生き延びるのが難しい。でも続ければ続けるほど面白くなっていくのが劇作家」と応じています。
「演劇は流行ってない」炎上の構造を考える
振り返ってみると、今回の騒動は単なる失言や暴論による炎上とは少し性質が異なります。
蓮見さんの発言には、演劇が好きだからこそのもどかしさ、才能ある人が経済的に続けられなくなる現状への怒り、そして演劇界が自らの殻に閉じこもりがちなことへの危機感が込められていました。一方で、その表現が「偉そうにするな」という攻撃的なトーンを伴っていたために、真意よりも言い方の方が先にクローズアップされてしまいました。
蓮見さん自身がこの炎上を逆手に取っている節もあります。授賞式で敢えて繰り返し、ラジオで笑い話にし、結果として岸田戯曲賞や演劇そのものへの注目を集めることに成功している。どんな手を使ってでも流行らせたいという宣言を、文字通り実行しているとも言えるでしょう。
まとめ
蓮見翔さんの「流行ってないのに偉そうにするのはやめましょうよ」という発言は、演劇を愛する人々の間に大きな波紋を投じました。この発言に怒りを感じた方もいれば、共感した方もいるでしょう。どちらの気持ちも、演劇への思い入れの深さの裏返しだと思います。
ただ、蓮見さんの発言の奥にある問いかけ――「才能ある人が演劇を続けられない構造をどう変えるのか」「演劇をもっと多くの人に届けるために何ができるのか」――は、演劇に関わるすべての人にとって避けて通れないテーマではないでしょうか。
言い方が乱暴だったかもしれません。でも、その結果として演劇のことがこれだけ多くの人の目に触れ、語られているのも事実です。蓮見さんが授賞式で言った「賛同しても反対してもいい、エネルギーは出るはず」という言葉の通り、この議論が演劇界にとって前向きなエネルギーに変わっていくことを願ってやみません。
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