なぜ演劇で有名な公共ホールほど職員が辞めていくのか

皆さんは、日頃お世話になっている公共ホールの職員の方々と、どんな会話を交わしていますか? 公演の打ち合わせや当日の舞台準備で接する機会の多い、あの制作スタッフたち。彼らが実は非常に高い確率で離職していることをご存知でしょうか。特に演劇公演に力を入れている公共ホールほど、その傾向は顕著だと言います。今回は、なぜ演劇で有名な公共ホールで働く人たちが辞めてしまうのか、その背景にある構造的な問題について考えてみたいと思います。小劇場で活動する役者の皆さんにとっても、決して他人事ではないこの問題。一緒に紐解いていきましょう。

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専門職なのに非正規雇用という不安定さ

公共ホールの制作スタッフは、一般的に考えられている以上に高度な専門性が求められる仕事です。劇団側の要望をくみ取りながら、施設の稼働状況を調整し、予算管理や宣伝業務もこなす。こうしたアートマネジメントの知識と経験を持った人材は、全国各地の公共ホールで求められています。しかし、その多くが非正規雇用という不安定な立場に置かれているのが現状です。

彼らはしばしば、その地域の出身者ではなく、わざわざアートマネジメントを学ぶために都会の大学に進み、そこで知識を身につけた専門人材です。演劇への情熱を持って公共ホールの世界に飛び込んだものの、数年ごとに更新される契約社員という立場では、将来の展望を描くことが難しい。給与水準も決して高いとは言えず、同じように演劇に携わりながらも、経済的な安定を得られないもどかしさを感じているスタッフは少なくありません。

するとどうなるか。条件の良い公共ホールが別の地域で正規職員を募集すれば、当然のようにそこへ転職していくのです。演劇の盛んな公共ホール同士で、優秀な人材の取り合いが起きていると言っても過言ではありません。その結果、せっかく地域の演劇事情に詳しくなり、劇団との信頼関係を築いたスタッフが去ってしまう。これは公共ホールにとっても、そこで活動する演劇人にとっても、大きな損失ではないでしょうか。

自主事業の充実がもたらす過重労働

演劇で有名な公共ホールの特徴として、自主事業に熱心に取り組んでいる点が挙げられます。単に施設を貸し出すだけではなく、ホール自身が企画・制作する公演を多数手がけている。これは地域の演劇文化を盛り上げる上で非常に重要な活動です。しかし、その充実ぶりの裏側では、現場スタッフへの負荷がとてつもなく大きくなっているのです。

自主事業をしっかり行おうとすればするほど、スタッフの業務量は増えていきます。劇団との打ち合わせ、舞台技術の調整、チケット販売の管理、広報活動。これらの業務を限られた人員でこなさなければならない。そんな中でも、優秀なスタッフはなんとかやりくりして、質の高い公演を実現してしまいます。できる人ほど仕事を任され、結果として過重労働を強いられる。気がつけば休日出勤は当たり前、残業時間は月100時間を超える。そんな状況が日常化していくのです。

こうして、演劇への情熱を持って公共ホールに就職した人ほど、心身ともに疲弊していきます。自分の健康を犠牲にしてまで働き続けることに限界を感じ、やがて離職を決意する。公共ホールの看板公演を成功に導いた立役者が、静かに職場を去っていく。そんな光景が、全国の演劇で有名な公共ホールで繰り広げられています。

専門職とマネジメント層のミスマッチ

さらに深刻な問題として、現場スタッフと管理職の間に生まれる溝があります。公共ホールの制作部門で働く人たちは、演劇の世界に精通した専門職です。ところが、その上に立つマネジメント層は、必ずしも演劇に理解があるとは限らない。むしろ、行政からの天下り的な人事でやってきた、演劇のことはよくわからない管理職が就くケースが少なくありません。

するとどうなるか。現場の声が上に届かないという事態が発生します。演劇公演を成功させるためには何が必要か、どんな準備が不足しているのか。現場スタッフが切実に訴えても、演劇の実情を知らない管理職には理解できない。予算の確保や人員配置について、現実離れした指示が下りてくることもあるでしょう。専門職としての誇りを持って働くスタッフにとって、これは大きなストレスになります。

マネジメントがうまくいかない職場では、当然モチベーションの維持が難しくなります。演劇の魅力を多くの人に届けたいという気持ちで働いているのに、それを妨げるような組織の壁にぶつかり続ける。そうしたフラストレーションが積み重なり、やがて「この公共ホールで働き続ける意味があるのだろうか」という疑問につながっていくのです。

バックオフィス機能の弱さがもたらす業務の偏り

公共ホールの運営で見落とされがちなのが、バックオフィス機能の充実度です。経理や総務、人事といった間接部門の体制が十分でない公共ホールは少なくありません。特に演劇公演に力を入れているホールほど、予算の多くを公演制作に充てる傾向があり、どうしても裏方の部門が手薄になりがちです。

その結果、本来ならバックオフィスが担うべき業務まで、現場の制作スタッフが肩代わりすることになります。経費精算の処理や書類作成、さらには人事に関する雑務まで。限られた時間の中で、本来の専門業務ではない仕事に追われる。これでは、演劇公演のクオリティを高めるための創造的な時間が削られてしまうのも無理はありません。

また、バックオフィスが弱いということは、スタッフの働き方を見直す仕組みも不十分だということです。労務管理がずさんになりがちで、過重労働に気づいても適切な対応が取れない。メンタルヘルスのケアをする担当者もいない。結果として、一人ひとりのスタッフにかかる負担が見過ごされ、気づいたときには手遅れだったというケースも少なくないでしょう。

まとめ

演劇で有名な公共ホールほど職員の離職率が高くなってしまう背景には、非正規雇用という不安定な身分、自主事業の充実による過重労働、マネジメント層とのミスマッチ、そしてバックオフィス機能の弱さという複合的な問題があることがわかりました。優秀な専門職ほど疲弊し、より条件の良い公共ホールへ転職していく。この構造は、地域の演劇文化を支える基盤そのものを揺るがしかねません。

小劇場で活動する役者としてできることは何でしょうか。公共ホールのスタッフとの対話を大切にし、彼らの置かれている状況に理解を示すこと。そして可能ならば、公演を通じて公共ホールの存在意義を社会に示し続けること。演劇文化を守り育てるためには、作り手だけでなく、それを支える人たちの環境が健全であることが欠かせません。

公共ホールとそこで働く人々の存在があってこそ、役者は舞台に立てるのだということを忘れずにいたいものです。そして、いつかこの業界から離職という言葉が少しでも減っていくことを願ってやみません。

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