小劇場で演劇を創作する際、オリジナル脚本ではなく、既に世に出ている既成脚本を使いたいと思うことはありませんか。優れた脚本は数多く存在し、それを自分たちのカラーで上演することで、深い作品づくりが可能になります。しかし、そこで頭を悩ませるのが「作者にいくら支払えば良いのか」という問題です。特に小劇場の演劇団体にとって、予算は常に課題であり、適正な上演料の相場がわからずに困っている制作担当者の方も多いでしょう。本記事では、小劇場における既成脚本の上演料について、著作権法の基礎から業界の慣行までをわかりやすく解説します。小劇場で演劇を続けていくために、脚本家との適切な関係づくりの参考にしていただければ幸いです。
小劇場のチケット予約管理に便利なクラウド型チケット予約システム トロクレチケットはこちら >>そもそも上演料はなぜ必要なのか
演劇の上演において、脚本を書いた脚本家には著作権が発生します。これは、創作物を保護するための大切な権利です。既成脚本を上演するということは、この著作権を使わせてもらうことと同じです。ですから、基本的には脚本家に対して許諾を得て、その対価として上演料を支払う必要があります。ただし、法律上は全てのケースで支払いが必須というわけではありません。著作権法第38条第1項という条文には、一定の条件を満たせば無償で上演できるという例外が定められています。
この条件は簡単に言うと三つあります。非営利であること、観衆から料金を受けないこと、そして出演者(関係者)に報酬を支払わないことです。つまり、入場無料で、出演者がボランティアで、営利を目的としない公演であれば、法的には脚本家の許諾も上演料の支払いも必要ないというのが著作権法の基本的な考え方です。
しかし、ここで注意しなければならないのは、小劇場の演劇公演の多くはこの条件を満たしていても、実際には上演料を支払うケースが多いということです。なぜでしょうか。それは、単に上演するだけでなく、脚本を自分たちの上演時間やキャスト構成に合わせてカットしたり改変したりすることがほとんどだからです。脚本に手を加える場合、著作者人格権という別の権利が関わってくるため、無料公演であっても必ず脚本家の許可が必要になります。そして、許可を得る過程で上演料の話が出てくるのが普通です。
小劇場の演劇公演と上演料の実態
小劇場で演劇を上演する場合、上演料の相場はどのくらいなのでしょうか。一口に小劇場と言っても、プロを目指す団体から完全なアマチュア劇団まで、その規模や形態は実に様々です。まず参考にしたいのが、公益社団法人日本演劇協会が定めているアマチュア演劇の上演料規定です。
この規定では、入場料が無料の場合、上演時間90分以内で1回あたり10,000円、90分を超えると20,000円という基準が示されています。この金額は多くの脚本家や劇団が上演料の目安として実際に採用しているもので、例えば野田秀樹さんのマネジメント団体NODA・MAPでも、この規定を踏まえた金額を設定していると明言されています。
小劇場で演劇を営む皆さんにとって、この10,000円から20,000円という金額は高いと感じるかもしれません。しかし、これはあくまでアマチュア向けの最低限の基準です。プロの商業公演を対象とした日本劇作家協会の決議では、上演料は公演の総予算の5%以上で、いかなる時にも100万円を下回らないとされています。小劇場の演劇公演と大規模な商業演劇とでは、求められる上演料の水準がまったく異なることを理解しておく必要があります。
実際のところ、小劇場の多くの劇団は、日本演劇協会の規定を参考にしつつ、個別に脚本家と交渉して上演料を決めているのが現状です。脚本家によっては、小劇場の公演に対して特別な料金設定を設けている場合もあります。また、初演からある程度の期間が経過した作品であれば、上演料が下がることもあります。大切なのは、脚本家の側にも生活があるということを理解した上で、誠実に交渉することです。
上演料の計算方法と交渉のポイント
では、具体的にどのように上演料を決めれば良いのでしょうか。まず、上演を考えている脚本がどのような形態で発表されているかを確認しましょう。商業出版社から出版されている脚本集の場合、巻末などに上演料の問い合わせ先が記載されていることがほとんどです。劇作家自身が運営するウェブサイトで連絡先を公開している場合もあります。日本劇作家協会が運営している戯曲デジタルアーカイブからも連絡を取ることができます。
交渉の際に準備しておきたい情報は、公演の日程や回数、会場の規模、想定入場者数、チケット料金の有無と金額、そして劇団の予算規模です。これらの情報をもとに、脚本家から上演料の提示を受けるのが一般的な流れです。
小劇場の演劇公演では、1公演あたりの上演料として定額を支払うケースが多いようです。先述した日本演劇協会の基準も、この定額方式です。一方で、チケット収入の一定割合を上演料とする方式を提案する脚本家もいます。この場合、リスクとリターンを脚本家と共有できるというメリットがありますが、計算が複雑になるというデメリットもあります。
上演料の支払い時期も重要なポイントです。公演前の前払いが基本ですが、公演後の精算を認めてくれる脚本家もいます。小劇場の劇団は資金繰りが難しい場合も多いので、この点は丁寧に相談すると良いでしょう。
忘れてはいけないのは、上演料以外にも発生する可能性のある費用です。脚本を改変する場合には、改変料が別途必要になることがあります。また、映像記録を残す場合や、公演をライブ配信する場合には、別途許諾と費用が発生することもあります。これらの点については、事前にしっかり確認しておきましょう。
無料公演だからといって安心はできない
先ほど触れた著作権法第38条第1項の条件を全て満たせば、法的には上演料の支払い義務はありません。しかし、だからといって無視して上演しても良いということにはなりません。なぜなら、脚本家との関係性や演劇コミュニティにおける信頼の問題があるからです。
小劇場の演劇界は、脚本家、演出家、役者、スタッフが互いに支え合って成り立っている世界です。上演料を支払わないという選択は、その脚本家の労働を無償で使うということにほかなりません。仮に法律上問題がなくても、それは長期的に見て良い関係を築けるとは言えないでしょう。
高校演劇の世界を見てみると、このことはよくわかります。全国高等学校演劇協議会のガイドラインでは、無料の大会公演であっても、上演許可を得ることを独自のルールとして定めています。これは、著作権法上は無料公演に該当する場合でも、実際の制作現場では改変がほぼ必ず発生するため、脚本家の許諾が必要になるという現実を反映したものです。高校演劇では上演1回につき5,000円という上演料が慣習として定着しており、この金額も日本演劇協会の規定に基づいています。
小劇場の演劇団体も同じです。上演時間の制約やキャスト数の問題から、既成脚本をそのまま使うことはほとんどありません。少しの語尾の変更から、場面のカットや追加まで、何らかの改変が行われるのが普通です。改変が発生する以上、脚本家の許諾は必須であり、その過程で上演料の話は避けて通れないのです。
脚本家との良い関係を築くために
上演料の金額そのものも重要ですが、それ以上に大切なのは脚本家とのコミュニケーションです。上演の許可を得る際には、単に料金を支払うだけでなく、どのようにその作品を解釈し、どのような上演を目指しているのかを伝えることで、脚本家も安心して許可を出せます。
また、上演後には、感想や観客の反応、公演の記録などを脚本家に送ると喜ばれます。自分の作品がどのように受け止められたかを知ることは、脚本家にとって何よりの励みになります。こうした誠実な態度が、次回以降の上演交渉をスムーズにし、場合によっては上演料の減額や特別な条件を引き出せることもあるでしょう。
小劇場の演劇を取り巻く環境は決して楽ではありません。限られた予算の中で、少しでも多くの観客に良い作品を届けたい。その思いは脚本家も同じです。適正な上演料を支払うことは、脚本家の創作活動を支え、結果的に質の高い脚本が生まれ続ける環境を維持することにつながります。
まとめ
小劇場で既成脚本を上演する際の上演料について、法律の基礎から業界の慣行までを見てきました。著作権法第38条第1項の条件を全て満たせば無償上演も可能ですが、実際には改変の発生などから、脚本家の許諾と上演料の支払いが必要になるケースがほとんどです。アマチュア向けの基準としては、日本演劇協会の規定にある1回10,000円から20,000円がひとつの目安となります。
大切なのは、法律の線引きにこだわるよりも、脚本家を尊重する姿勢です。小劇場の演劇は、多くの作り手の善意と努力の上に成り立っています。適正な上演料を支払うことは、その循環の中に自分たちも参加するという意思表示でもあります。脚本家と良い関係を築きながら、素晴らしい作品を上演し続けられるよう、上演料の問題と誠実に向き合っていきましょう。予算が厳しいからこそ、オープンなコミュニケーションを心がけ、互いに納得できる形を見つけることが、長く続けていくための秘訣です。
簡単に使えるチケット予約システム トロクレチケット >>