日本の多くの劇団の公演に出演する役者の契約は、劇団が役者に業務を委託する「業務委託契約」だと考えられます。一部の株式会社化した劇団や、公立劇場に属する劇団では、雇用契約をしているケースもありますが、ほとんどが業務委託契約でしょう。この場合、雇用契約ではないため、労働者の場合に認められるような権利が存在しません。
しかし、業務委託契約といえど、「労働者性」が認められると、雇用契約で労働者に認められているものと同等の権利が付与されることもあります。
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業務委託契約で出演する役者
業務委託契約を通じて舞台に出演する役者が、労働者として扱われるかどうかは、契約内容や労働関係の実態によって異なります。役者と雇用主の関係性や業務の性質、報酬の仕組み、労働条件など、さまざまな要素が労働者性の判断に関与します。
役者への指揮命令があるか
まず、役者と雇用主(劇団)の関係性が重要です。労働者として扱われるためには、雇用主(劇団)が役者に対して支配や指揮を行い、業務の方法や進行を管理する権限があるかどうかが考慮されます。もし役者が自分の時間や方法を自由に決めることができ、雇用主からの直接的な指示や命令を受けない場合、役者の労働者性は疑問視される可能性があります。一方で、演出家やプロデューサーからの具体的な演技指示やリハーサルのスケジュール管理などが行われる場合、労働者としての要件が満たされる可能性が高まります。
出演の報酬がどのようになっているか
次に、報酬が労働者性の判断に影響を与えます。労働者としての役割であれば、役者は給与や賃金を受け取るはずです。業務委託契約においても、役者が報酬を受け取るかどうか、また報酬が労働量や労働結果に応じて支払われるかどうかが考慮されます。報酬が一定額であり、労働の成果に関わらず支払われる場合、役者の労働者性が低くなる可能性があります。
簡単に言うと、時給で支払われるのか、舞台出演という成果に対して支払われるのか、という違いです。
労働条件はどうなっているか
さらに、労働条件も労働者性の判断に影響を与えます。労働者としての役者は通常、労働時間や休暇、労働環境などの労働条件に関する権利を持ちます。
業務委託契約においても、これらの条件が定められているかどうかが労働者性の判断材料となります。役者が契約によって定められた労働時間外にも演技のための練習や準備を行い、また、適切な休息や安全な労働環境が提供されない場合、役者の労働者性は問題視される可能性があります。
その他に労働者性を疑う要件
他にも、契約の期間や更新の可否、役者が他の仕事を受けることができるかどうか、業務の独立性など、さまざまな要素が関与します。役者が契約期間中に他の舞台や映画の出演を禁止される場合や、役者が雇用主(劇団)以外のクライアントと契約関係を持つことが許可されない場合、その業務委託契約はより雇用関係に近いものとみなされる可能性があります。
過去の判例をチェックすると出てくる新国立劇場運営財団事件
過去には、出演者に労働者性があるのではないかと裁判で争われた事例もあります。
それがいわゆる新国立劇場運営財団事件です。
演劇ではありませんが、新国立劇場を運営する法人とオペラ歌手(合唱団メンバー)との間で結ばれ、毎年更新されてきた1年単位の出演基本契約が更新されないのは、労働契約の一方的な解約であり認められないとして、オペラ歌手が労働契約上の地位確認及び賃金の支払を求めた裁判です。
地裁では、本件契約は労働契約ではないとして請求を棄却、オペラ歌手が控訴しました。
さらに第二審の高裁は、労働基準法や労組法が適用される前提となる労働契約関係が成立しているとはいえないとして、原審を維持し、控訴を棄却しました。
つまり原告が敗訴したわけです。
しかしこれには続きがあります。
最高裁では、このオペラ歌手は、労働組合法上の労働者に当たると解すべき、とされたのです。歌唱をすることで時間的・場所的に一定の拘束を受けていたと解釈されたり、報酬は歌唱の労務の提供それ自体の対価であると解釈がおこなわれました。
これはオペラの事例ですが、演劇においても同様のケースは考えられますので、とても重要な視点です。地裁、高裁、最高裁で判断は分かれたわけですが、判断が分かれるほど微妙な問題ともいえます。
まとめ
全体として、業務委託契約における役者の労働者性は、契約内容や実際の労働関係に依存します。
役者が労働者として認定されるかどうかを判断するには、具体的な契約内容や労働状況を詳細に検討する必要があります。労働者としての権利と責任を明確に定め、公平かつ適切な労働関係が確立されることが重要です。
小劇場の役者は、ともすれば搾取されがちです。もし舞台出演中にケガをしてしまうなどの不利益を被るようなことがあれば、そこに労働者性があるかどうかをよく確認し、必要があれば劇団やプロデューサー側に、労働者としての権利を主張しましょう。
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