小劇場で活動していると、毎月の会費や公演ごとの負担金をめぐる悩みは避けられません。集まって話し合えば済むうちはよいのですが、なかなか支払ってもらえない人が出てくると、制作担当者や代表者は困ってしまいます。しかも小劇場の劇団は、法人格を持たない任意団体であることも多く、「そもそもうちは請求できるのだろうか」「裁判なんてできるのだろうか」と不安になる方もいると思います。
法人格のない劇団でも、会費や公演負担金の請求や督促をすることは十分に可能です。ただし、団員だから払ってもらえて当然と考えるのではなく、その人との間に支払いの合意があったのか、会費の金額や決め方が適切だったのかを整理することが必要でしょう。
小劇場のチケット予約管理に便利なクラウド型チケット予約システム トロクレチケットはこちら >>会費の支払義務は団員であることだけで当然に生まれるわけではない
会費の支払義務は、劇団員になったから自動的に発生すると単純に言い切れない場合があります。入団のときに規約を承認し、その規約に「団員は月額五千円を毎月末までに支払う」と書いてあれば、支払義務はかなり強いと言えます。入団申込書に会費額が記載され、本人が署名して申し込んでいる場合も同じです。LINEやメールで会費制度の説明を受け、本人が了承している記録が残っている場合も比較的強い根拠になります。
また、長期間にわたって全員が同じ金額を支払い、本人も何度も支払っていたという事実があれば、明文化されていなくても黙示の合意があったと主張できる可能性があります。公演ごとの負担金でも、出演前に「今回は出演者一人三万円を負担してください」と説明し、本人が了承して出演したのであれば、請求できる可能性は比較的高いです。
一方で、弱いのは、公演が終わってから突然「今回は三万円払ってください」と請求するような場合です。また、「できれば払ってください」「活動へのカンパです」という位置付けだった場合も、強制しにくくなります。民法では、契約は必ずしも契約書がなければ成立しないわけではありません。メールやLINE、過去の支払い、総会での決定への参加などから合意が認められる余地はあります。しかし、裁判になった場合に合意があったことを立証するのは劇団側です。ですから、書面や記録が残っている方が圧倒的に扱いやすくなります。
月会費と公演ごとの負担金は分けて考える
会費と言っても、毎月の月会費と、公演ごとに集める負担金は少し分けて考えた方が安全です。たとえば規約に、団員は月額三千円の会費を支払うとあれば、月会費は比較的明確です。いつ、いくら、誰が払うのかがはっきりしているからです。
一方で、公演ごとに必要な金額を団員から徴収するとだけ書いてある場合は、誰が、どのように金額を決めるのかが問題になります。総会の過半数で公演負担金を決定するのか、出演者会議で出演者の同意を得て決めるのか、一公演につき原則二万円とするのか、特別な費用が発生する場合は事前に通知するのか。
小劇場ではチケットノルマ、公演参加費、制作費負担金など、さまざまな名前が使われます。しかし、法律上は名称ではなく実質で判断されます。会費と呼んでいても、実際には任意のカンパであれば強制できませんし、公演参加費と呼んでいても、出演契約のときに明確に合意していれば請求できる可能性があります。名前ではなく、本人が何に同意したのかを確認することが大切なのです。
任意団体だから請求できない、ということではない
「うちは法人ではないから、未払い会費を裁判で請求できない」と心配する方もいます。しかし、そうとも限りません。法人格のない劇団でも、団体としての組織があり、意思決定方法があり、構成員が変わっても団体が存続し、代表者や総会、財産管理などの仕組みがある場合には、いわゆる権利能力なき社団として扱われることがあります。
ただし、数人がその都度集まって公演をしているだけのようなユニット、あるいは緩やかな劇団の場合は、権利能力なき社団ではなく、民法上の組合に近いケースもあります。民法上の組合は、各当事者が出資して共同事業を営む契約です。金銭出資を約束している場合には、その出資義務自体が問題になります。実務上は、単に任意団体と呼ぶだけでなく、その劇団が法律上どのような団体なのかを一度整理しておくとよいでしょう。
督促は段階を踏むと人間関係を壊しにくい
小劇場の場合は人間関係がありますから、いきなり内容証明郵便を送るのではなく、基本的には段階を踏むのがおすすめです。まずは通常の支払案内として、メールやLINEで「○月分会費五千円のお支払いが確認できていません。○月○日までに下記口座へお振込みください。すでにお支払い済みの場合はご容赦ください」と連絡します。この段階では督促というより、単なる入金確認にしておく方が角が立ちません。
それでも支払いがなければ、次は正式な督促です。未払期間、一か月当たりの金額、未払総額、支払義務の根拠となる規約、支払期限、振込先、支払えない場合の相談先を明示します。たとえば「劇団規約第○条に基づく○○年四月から八月までの会費二万五千円が未納となっています。○○年○月○日までにお支払いください」という形です。ここでは感情的な表現を避け、事実と金額を淡々と伝えることが大切です。
それでも払わなければ、最終催告に進みます。「○月○日までに支払い又はご連絡がない場合には、規約に基づく団員資格の取扱い及び法的手続を検討します」と伝えます。金額が大きい場合、長期間滞納している場合、本人が支払義務そのものを否定している場合には、内容証明郵便を利用する選択肢もあります。
滞納を理由に退団・除名できるかは未払金請求とは別問題
会費を払わない人を退団させたり、除名したりできるかという問題は、未払金を請求することとは別に考えなければなりません。たとえば規約に「団員が三か月以上会費を滞納し、相当期間を定めた催告を受けても支払わない場合、代表者は理事会の決議により団員資格を停止することができる」とあれば処理しやすくなります。さらに「六か月以上会費を滞納した場合、総会決議により除名することができる」と定めておく方法もあります。
逆に、規約に何もないのに代表者が突然、金を払っていないから今日でクビとするのは、後々トラブルになる可能性があります。特に、退団させることと、それまでの未払会費が消えることは別です。たとえば一月から六月まで団員で、七月一日に退団した場合でも、通常は一月から六月分の既に発生した会費債務まで退団によって当然に消えるわけではありません。逆に、退団したつもりだったと言ってくることも起きますから、「退団は代表者に書面又は電子メールで届け出た日をもって効力を生ずる。退団日までに発生した会費については支払義務を負う」という規定を置いておくとかなり明確になります。
法的手続に進む場合と証拠整備
数万円程度の未払会費で弁護士を立てて通常訴訟まで行うと、費用倒れになりやすいので、まずは本人との協議が現実的です。それでも支払いがない場合には、支払督促や少額訴訟が候補になります。支払督促は、原則として債務者の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立て、書類審査で支払いを求める制度です。相手が二週間以内に異議を出すと通常訴訟に移行します。
ただし、裁判に入ると結局は「この人はそもそも月五千円払うことに合意していたのか」が問題になります。したがって、裁判手続そのものより、その前の証拠整備の方が重要です。規約、入団申込書、会費について説明したメールやLINE、総会議事録、本人の過去の振込履歴、請求書や請求メール、退団届などを保存しておきましょう。一
揉めないために規約を整備しておく
今後の揉め事を防ぐ意味では、会費という条文だけでなく、もう少し細かく規約を整備しておくと運用しやすくなります。月会費の金額、支払期限、支払方法を決めておくことは基本です。公演ごとの負担金を徴収することがある旨と、その決定方法も必要です。入団した月や退団する月の会費の扱い、休団中の会費、支払困難な場合の減免や分割払い、滞納時の督促方法、一定期間滞納した場合の資格停止、除名や退団の手続、退団しても既発生の未払金は支払う旨、会費額を変更するときの決議方法も入れておきたいところです。
会費額を決める人、変更する手続、公演負担金を決める手続まで規約化すると良いでしょう。小劇場では「昔から毎月五千円だから払って」「今回赤字だったから出演者は追加で二万円ね」という運用になりがちですが、法的には後者ほど争われやすくなります。日頃から決め方を共有し、記録を残しておくことが、結果として人間関係を守ることにもつながります。
まとめ
小劇場の劇団であっても、法人格がないからといって会費の請求や督促ができないわけではありません。
督促は、いきなり強い手段を取るのではなく、通常の支払案内、正式な督促、最終催告というように段階を踏むとよいでしょう。未払期間や金額、規約上の根拠、支払期限、振込先、相談先を明確にし、感情的な言葉を避けましょう。退団や除名は未払金請求とは別の問題ですから、規約に手続を定めておく必要があります。法的手続に進む場合でも、まずは証拠を整え、現実的な解決を目指すことが重要です。
劇団は人間関係で成り立っています。会費のルールを早めに明確にし、困ったときは一人で抱え込まず、必要に応じて専門家に相談しながら、演劇活動を続けやすい環境を整えていきましょう。
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