演劇を観た人がSNSにネガティブな感想を投稿することに対して、投稿しないでくださいとアナウンスするのはありなのでしょうか。ある制作者がSNSで「つまらなかったという感想は公開せず、友人へのLINEや当日アンケートに留めてほしい」と投稿したところ、賛否両論の大きな反響を呼びました。
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ある演劇制作者がSNS上で、観劇後のネガティブな感想は公開せず、友人へのメッセージや劇場のアンケートに留めてほしいと訴えました。その理由として、演劇はそのときその場で完結するライブアートであり、観客によって受け止め方が大きく異なるため、一方的な悪口は不公平になりやすいこと、ネガティブな投稿が他の観客の気持ちを損ねたり今後の集客に悪影響を及ぼす可能性があること、特に小規模な公演ではネットに残る批評が少ない中でつまらなかったという情報だけがデジタルタトゥーとして残ってしまうリスクがあることなどが挙げられていました。
この投稿を演劇制作者がおこなった理由を推察すると、背景には、小劇場や小規模な演劇ならではの脆弱さへの懸念があるように思えます。大規模な劇場公演と違い、小規模・小劇場演劇は一公演あたりの観客数が限られており、SNSでの評判が集客に与える影響は相対的に大きくなります。また、製作資金も潤沢ではない小劇場演劇では、一度ネガティブな印象が広まると、その挽回が非常に難しいです。制作者の側には、苦労して作り上げた作品がつまらなかったの一言で評価されてしまうことへの悔しさや、公演を楽しみにしている他の観客の体験を損ねたくないという思いがあったのでしょう。
SNS上で巻き起こった賛否両論の声
しかし、この投稿に対してSNS上では多くの反論が寄せられました。「SNSでは観劇して良かったことだけ書いてという意見には全く同意できない」という声や、「金を払って観たものの感想を自由に言うことを愚かと断じるのは覚悟が足りない」という指摘、「舞台だろうが映画だろうが有料でエンタメを見ての感想が良かったでも悪かったでも、演者の人格否定でないなら書いて良いに決まっている」という意見などが相次ぎました。
反論に共通しているのは、感想を書くかどうかは観客の自由であるという一点です。観客はお金と時間を投じて劇場に足を運び、作品と向き合っています。その上で感じたことを言葉にする権利を、演劇制作者が制限しようとすることに対する違和感や反発なのです。また、「面白かったという感想が三つあれば、一つや二つのつまらなかったという感想は気にしなくてよいのではないか」という現実的な意見も見られました。確かに、全ての観客に作品が等しく響くとは限らず、合う合わないがあるのは当然のことでしょう。
小劇場演劇のジレンマ
一方で、特に小劇場演劇にとっては、大劇場の公演と比べてはるかに演劇の作り手と観客の距離が近いという点が特徴的です。出演者が帰り際に観客と直接会話を交わすことも珍しくなく、SNSで役者が観客の感想をエゴサすることも日常的に行われています。このような環境では、ネガティブな感想が制作者や出演者の目に直接触れる可能性が高く、それが公演期間中のモチベーションに影響を与えることも考えられます。
また、小劇場演劇は情報が少ないという問題も抱えています。大規模な公演であれば多くのメディアがレビューを掲載し、複数の視点からの評価が得られますが、小劇場演劇ではSNS上の口コミが事実上唯一の評判となることも少なくありません。そうした中でつまらなかったというネガティブな情報だけが残ってしまうと、作品の公平な評価が損なわれるリスクがあるのも事実です。
観劇の感想という表現の自由
一方で、投稿は自由だと考える観客の、反論の声にも耳を傾ける必要があります。有料のエンターテインメントとして作品を提供する以上、その作品がどのように受け止められたかをそのまま知るのは演劇制作者の責務でもあります。観客が感じたことをそのまま述べることは、表現の自由の基本です。
だからこそ、演劇制作者のほうでも、ネガティブな感想に対して過敏に反応するのではなく、その感想に含まれる率直な意見を次の作品作りの参考として受け止める寛容さが求められるでしょう。もちろん、明らかな誹謗中傷や人格攻撃は別問題ですが、作品の内容に対するつまらなかったという感想は、一観客の正直な受け止め方として尊重するべきではないでしょうか。
制作者が良い感想だけを求めるのは、作品への愛情ゆえの過保護な態度かもしれませんが、それがかえって演劇業界全体にとってマイナスになる可能性も否めません。観客が自由に感想を言えない風潮が広がれば、演劇を観る人の層が広がらず、結果的に小規模演劇・小劇場演劇の衰退を招くことになるのではないでしょうか。
SNSは双方向のコミュニケーションツールですから、制作者が一方的にルールを押し付けるのではなく、観客との対話を通じて、より良い関係を築いていくことが重要ではないかとも思います。ときには厳しい意見も含めて全ての感想を受け止め、それを糧に成長していく姿勢こそが、演劇公演を続けることの本質にかなっているように思えます。
まとめ
ネガティブな感想をSNSに投稿しないでという制作者のアナウンスは、小規模演劇・小劇場演劇ならではの脆弱さへの懸念から生まれたものですが、それが観客の表現の自由を制限するものとして受け取られたことで、大きな議論を呼びました。制作者には作品への愛情と守りたいものがありつつも、観客には感じたことを表現する自由があります。だからこそ、制作者は観客の率直な意見を受け入れる覚悟を持つことが必要だと思います。
演劇は、作り手と観客が一緒になって作り上げる芸術です。SNSでの感想のあり方も、その関係性の一部として、これからも議論を続けながらより良い形を模索していくことが、小規模演劇・小劇場演劇に関わる全ての人にとって有意義なのではないでしょうか。
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